「月2,000円稼ぐ本」の資産価値
Kindle出版で「月2,000円稼ぐ本」を作ったら…
その本の価値って、いくらだと思いますか?
ただ、Kindle本の価値を計算するのは、簡単ではありません。
例えば、あなたが一冊のKindleを書き上げ、初月で2,000円の印税収入があったとします。
そこへ誰かがやってきて、
「この本の権利を、私に売ってくれませんか?」
と言ってきたら…
あなたはその本の権利を、いくらなら売っても良いと考えますか?
「月2,000円だと、1年で24,000円。まあ、3万円ぐらいなら売ってもいいかな?」
「いやいや、2年分は収益が入るだろう。2,000円×24ヶ月=48,000円…5万円なら売っても良い?」
など、考え方ひとつで、価値が変わってしまいます。
そこで、本記事では
「月2,000円を稼ぐ本の"正しい価値"」
について、試算してみます。
私は「証券アナリスト」という、投資商品の分析にかかる資格を持っているのですが…
今回の"Kindle本の価値"を計算するにあたって、証券アナリストがよく使うモデルで考えてみます。
まずは、今後の印税額を決めるにあたり、前提をおいてみましょう。
「月2,000円稼ぐ本」は、1年で24,000円、2年で48,000円と比例的に収益が増える!
と、言いたいところですが…
実際は、そう上手くはいかないでしょう。
よほどの大ヒット作でもない限り、本の売り上げは、基本的には出版直後がピーク。
その後は、緩やかに印税額が下がっていく、と考えるのが自然でしょう。
この「印税の減少割合」を予測するのは難しいので、いったんは20%と仮定します。
つまり、月2,000円を稼ぐ本なら、
- 1年目:24,000円
- 2年目:19,200円(24,000円から20%減)
- 3年目:15,360円(19,200円から20%減)
…
と、印税額が少しずつ落ちていくイメージです。
これを繰り返してみると、
- 29年目:46円
- 30年目:37円(46円から20%減)
となりました。
計算上は31年目:30円、32年目:24円…
と続いていきますが、全体への影響はわずかです。
したがって、「30年目:37円」で収益がストップするものとして試算していきます。
では、ここで計算した、
- 1年目:24,000円
- 2年目:19,200円
- …
- 29年目:46円
- 30年目:37円
という金額を、そのまま全部足し算すれば、"この本の価値"を出せるのでしょうか。
実は、違うんです。
ここで1点、考えなければならないことがあります。
それは、"時間"の概念。
ここでいきなり、質問ですが…
①今すぐ、100万円もらえる
②1年後に、100万円もらえる
の二択なら、あなたはどちらを選びますか?
当然、①を選ぶのが正解です。
今すぐ100万円を受け取り、それを利回り2%で投資すれば、1年後には102万円になります。
ここで重要なのが、
「何パーセントでお金を回せるか」
という前提。
この前提に正解はありませんが、私がよく使うのは"2%"という数字。
株から得られる配当金(利息のようなもの)は、平均して2%前後です。
(【参考】日本証券取引所プライム市場に上場する銘柄の、2023年5月の単純平均利回り:2.26%)
ざっくりイメージを伝えると、
「株価の上げ下げに関係なく、株を持っていると毎年2%分ぐらいのお小遣いがもらえる」
という感じです。
この「利回り2%」を前提とすると、
- 今すぐもらえる100万円
- 1年後にもらえる102万円
は、同じ価値といえます。
なんとなく感覚的にわかったと思いますが、一応ちゃんと計算すると、
・1,000,000円×1.02=1,020,000円
となります。
これを応用すると、
「現在の100万円は、2年後にもらえる○円と同じ」
という計算もできます。
・1,000,000円×1.02×1.02=1,040,400円
つまり、
「2年後にもらえる1,040,400円」
が、今すぐもらえる100万円と同価値となります。
では逆に、
・1年後にもらえる100万円
は、現時点でどれだけの価値があるのでしょうか。
これを求めるためには、かけ算の"逆"をします。
つまり、わり算です。
実際には、このような計算をします。
・1,000,000円÷1.02=980,392円
つまり、
- 今すぐもらえる980,392円
- 1年後にもらえる1,000,000円
が、同じ価値といえます。
同じく、
「2年後にもらえる100万円の、現在の価値は?」
という質問に対しては、
・1,000,000円÷1.02÷1.02=961,168円
ここから、
- 今すぐもらえる961,168円
- 2年後にもらえる1,000,000円
が同価値であるといえます。
(余談ですが、この計算によって得られた"現在の価値"は「割引現在価値」といいます。)
…すいません、少し授業が長くなってしまいました。
ここまでの話を、一度おさらいしましょう。
◆1年目
・2,000円×12ヶ月で、24,000円の印税が入ると仮定。
・実際には、1年かけて24,000円が手元に入る
→計算をわかりやすくするため、「1年後に24,000円が入る」と考える。
すると、「1年後にもらえる24,000円」の現在価値は、
24,000円÷1.02=23,529円
となる。
◆2年目
・1年目よりも、印税が20%減ると仮定。1年間で得られる印税は、
24,000円×80%=19,200円
・この19,200円が、2年後に手に入ると考える。
→「2年後にもらえる19,200円」の現在価値は、
19,200円÷1.02÷1.02=18,454円
となる。
この計算を延々と繰り返すと、
- 3年後にもらえる印税の現在価値=14,474円
- 4年後にもらえる印税の現在価値=11,352円
- …
- 30年後にもらえる印税の現在価値=21円
という結果を得ることができます。
ここで出した金額は、正真正銘の「現時点での価値」。
なので、ここまで出してはじめて、1年目、2年目…の印税額を足し算することができます。
試算した結果、「30年間で得られる印税」の現在価値は、
109,016円
となりました。
説明が長くなりましたが、結論としては、
『月2,000円稼ぐ本の価値=109,016円』
という結果となりました。
これを計算したからといって、Kindle本の印税額が上がることはありません。
しかし、Kindle出版に対する心構えを、大きく変えることができます。
これまで、頑張って1冊の本を書き上げ、月2,000円の印税が得られたとき、
「これだけやって、月2,000円か…」
と感じていたかもしれません。
しかし、今回の試算から、
「月2,000円稼ぐ本の価値=約10万円」
という結果が得られました。
したがって、
「月2,000円しか稼げない本のために執筆している」
ではなく、
「今、自分は10万円の仕事をしているんだ!」
と、気持ちを切り替えることもできます。
このレベルの本を2ヶ月で作ることができれば、月収5万円。
頑張って1ヶ月で作れば、月収10万円です。
月10万円も稼ぐことができれば、副業としては上位のレベルでしょう。
Kindle出版は、短期間で大きな収益を得ることが難しいビジネスです。
頭ではわかっていても、「月数千円」という数字を直視すると、心が折れかける瞬間もあるかもしれません。
そんなときは、気持ちを切り替えましょう。
目先の印税収入だけではなく、
「あなたが書いた本の、現在の価値」
を考えてみれば、それがモチベーションにつながるかもしれません。